ライダーの皆様、3月に入り春めいて暖かくなってきましたね。いよいよ本格的なバイクシーズン到来です。寒い冬の間、バイクのカスタムやメンテなどしていた方もいらっしゃるのではないでしょうか。ところで皆さんが現在乗っているバイクの燃料供給装置はキャブレター(以下キャブ)でしょうか?それともフューエルインジェクション(以下Fi)でしょうか?バイク初心者の私が歴代乗ってきたバイク達は、キャブ車2台、FI車4台でした。
・キャブ車:ドゥカティ900SS、LMLスターデラックス125
・Fi車:ハーレー・ファットボーイ、MVアグスタ・ドラッグスターRR、トライアンフ・スラクストンR、ドゥカティ・848EvoコルセSE
Fi車は、気温の低い冬でもエンジンがすぐかかるなど、非常に快適です。しかしながら、長くバイクに乗っているライダーさんの中には、自分で調整できるキャブ車しか乗らないという人もいます。おそらくそこには、手間がかるけどそれが良いといったキャブ車の魅力があるのだと思います。今回はこれを機にキャブレターとインジェクションの構造の違い、メリット・デメリット、そして調整の仕方など、バイク初心者なりに勉強していきたいので、どうかお付き合いよろしくお願いします。
A. キャブレターとインジェクションとは?
そもそもキャブレターとインジェクションって何?という話からしていこうと思います。キャブとFi、どちらも燃料をエンジンに送り込む装置です。すごくシンプルに言うと、そのやり方がアナログ式なのが「キャブ」、デジタル式なのが「Fi」です。それではまずキャブとFiが燃料を供給する仕組みについて、簡単に説明していきます。
・キャブレターが燃料を供給する仕組み
①エンジンのピストンが下がります
②エンジン内部に負圧が生じます (*負圧とは注射器を引っ張った時に、発生する圧力と同じと考えてください。)
③負圧によって、燃料と空気(混合気)を吸い込み、それをエンジンに送ります
・インジェクションが燃料を供給する仕組み
❶各種センサーがその時の気温や酸素濃度などを確認します
❷その瞬間の条件に最適な燃料の量を計算します
❸インジェクターから燃料を噴射し、空気と共にエンジンに送り込みます
まずバイクは、エンジンに燃料(ガソリン)を送ってやらないと動きません。その動力源の役割をしているがキャブでありFiという事ですが、上記のようにプロセスが違います。車は1990年代にキャブからFiが主流になりましたが、バイクは2000年を過ぎてもキャブ車が作られていました。しかしながら年々厳しくなる排ガス規制に、キャブ車が対応できなくなってきたことや技術の革新もあり、2010年以降はバイク業界もFi車が主流になってきました。そして現在生産されているバイクはほぼFiを採用しています。そのような状況下でも昔ながらのキャブ車を愛し、乗り続けているライダーは少なくありません。
B. キャブレターとインジェクションのメリット・デメリット
バイクは車に比べると趣味性が高い乗り物です。キャブは自身でセッティングできるので、やはり昔ながらのバイク乗りには刺さるところも多いようです。この章では、キャブとFiのメリット・デメリットを考察すべく、下記の表を作成してみました。尚、同一メーカーで同じ排気量のバイク同士の比較となります。
項目 | キャブ | Fi |
①燃費 | Fiより悪い | キャブより良い |
②始動性 | 気温の低い時は悪い | 年中良い |
③出力 | Fiより少し劣る | キャブより少し勝る |
④メンテのしやすさ | メンテがいる | メンテ不要 |
⑤車体価格 | Fiより安い | キャブより高い |
⑥調整 | 自身で調整できる | 専用の機械等が必要 |
⑦修理代 | 安く済む | 高い |
①燃費に関してですが、気候条件に左右されやすいキャブ車の方が、若干Fi車より良くない感じです。②の始動性はキャブ車はチョークを引けば、寒くてもおそらくエンジンはかかると思います。Fiはオートチョーク内蔵なので始動性はキャブより良いはずです。③の出力に関しては、スーパースポーツの最高峰バイクであればFi車の方が断然最高出力が高いですが、一般公道を走ることに関してはそこまで変わりません。④キャブ車は走らない時期が長い時に、ガソリンを抜いたり清掃したりといったメンテが必要になります。⑤Fi車の方がコンピューターが入っていることもあり、キャブ車より車体価格は上がります。⑥キャブ車は自身で調整できるのが醍醐味です。対してFiは専用機械が必要と言うこともあり、自分では調整しにくいです。⑦キャブ車の方が作りが簡単なので安く済みます。Fi車はコンピューターで制御されている為、直すのにお金がかかることが多いです。
C. キャブレターの構造とセッティングの仕方
・キャブレーターの構造
それでは次にキャブの構造を見ていきたいと思います。キャブレターはスロットルを開ける際の負圧を利用して、ジェットと呼ばれる細いノズルを通して燃料タンクからガソリンを吸い上げます。その途中でガソリンと空気を混ぜて混合気となり、エンジン内部に噴射されます。ライダーがスロットル(アクセル)を開ける度合いによって発生する負圧が変わり、送り込むガソリンや空気の量も変化します。その結果、スロットルで速度調整ができるわけですね。全開時にはメインジェット、安定走行時のジェットニードル、アイドリング時にはスロージェット、キャブレターは場面によってジェットを使い分けています。キャブ乗りの皆様が大好きなケーヒンFCRの構造を添付しておきます。
・キャブレターの調整
キャブの調整はどういった時に必要なのでしょうか。エンジンのボアアップ、マフラー交換時、エアクリーナを外した時は、調整した方が良いです。そして天候・気温・湿度・気圧の変化によっても調整の必要があります。
夏場:気温&湿度が高い夏場は、酸素密度が低下し、混合気は濃くなります。
冬場;気温&湿度が低い冬場は、酸素密度が上昇し、混合気は薄くなります。冬場にキャブ車のエンジンがかからない理由は、混合気が薄いからで、チョークを引いて混合気を濃くしてエンジンをかけるわけですね。
雨天時:湿度が上昇して酸素密度が低下する為、混合気は濃くなります。
バイク初心者の管理人はキャブの調整に詳しくないのですが、考えられる症状や状況、原因、そしてセッティング方法を下記にてまとめてみました。
アクセル | 症状・状況 | 原因 | セッティング |
全開時 | 息つき/ノッキング/ オーバーヒート/ プラグ電極が白い | 薄い | ・メインジェットの番手を上げる ・プラグの焼け色を見て1ランクづつジェットを上げる。 ・キャブレター内部&燃料コック&ホース等の詰まりを点検 |
全開時 | 頭打ちが早い/車速が伸びない/ 回転がボコつく/パワー不足/ プラグ電極が黒い | 濃い | ・メインジェットの番手を下げる ・プラグの焼け色を見て1ランクずつジェットを下げる。 ・プラグの焼け色がきつね色になればOK |
1/4~3/4 開時 | 息つき/ノッキング/失速 | 薄い | ・ジェットニードルのクリップ位置を下げる |
1/4~3/4 開時 | もたつく/ボコつく/加速が悪い | 濃い | ・ジェットニードルのクリップの位置を上げる |
1/8~1/2 開時 | 息つき/ノッキング/失速 | 薄い | ・ジェットニードルのストレート径を細くする |
1/8~1/2 開時 | もたつく/ボコつく/加速が悪い | 濃い | ジェットニードルのストレート径を太くする |
超低速 アイド リング時 | 回転が不安定 | 薄い | ・スロージェットの番数を上げる ・エアスクリューを締めこむ |
超低速 アイド リング時 | 黒煙が出る/音が鈍い/ エンストする | 濃い | ・スロージェットの番数を下げる ・エアスクリューを緩める |
急開時 | レスポンスが悪い | 両方 | ・メインジェットの番数を変える ・ジェットニードルの位置を変える |
急開時 | 回転の戻りが悪い | 濃い | ・スロージェットの番数を下げる ・エアスクリューを緩める |
0~1/8 開時 | エアスクリュー調整をしても エンジンの調子が変わらない | 両方 | ・スロージェットの番数を変えてみる |
キャブの調整は簡単そうに見えて奥が深そうです。今まではバイク屋さんに任せきりでしたが、将来的には、自分でもキャブの調整ができるようになりたいですね。
D. インジェクションの構造とセッティング方法
・インジェクションの構造
ではFiの構造はどうなっているのでしょうか。以前乗っていたハーレーを例に挙げながら説明していきたいと思います。1980年〜1990年にFiが世に出始めた頃は機械式Fiが主流でしたが、現在は全て電子式Fiになっています。英語で言うとElectric Fuel Injection、日本語では電子制御燃料噴射システムと言われています。
Fiシステムとは、ECM(Eletric Control Module)とインジェクターから成り立っています。ECMとは人間でいう脳の役割を果たすもので、ドゥカティなどではECU(Eletric Contorol Unit)とも呼ばれています。ECMやECUは、車両各部に設けられたセンサーからエンジンの回転数、温度、吸気温度、排気ガスの状態などを分析します。そして最適量の燃料噴射をインジェクターに指示し、点火タイミングなども制御しています。まさにコンピューター制御で全てをコントロールしているFIは、アナログ式なキャブとは対照的ですね。
・インジェクションの調整
インジェクションの調整は、色々なやり方があります。まずは私がハーレーに乗っていた時行っていた、簡単なチューニングについて説明したいと思います。
ハーレーやトライアンフなどのサイレンサーメーカーとして有名なVance&Hines社がリリースしているFuelpak3 (通称FP3)。このFP3は、製品を車両に接続し、あわせてスマートフォンに専用アプリをインストールすることで、車両側電子制御モジュール(ECM)とスマートフォン間のBluetooth通信およびスマートフォンとVance&Hinesデーターサーバー間のインターネット接続を経由して、車両の仕様にあわせデーターサーバーに用意されたチューニングマップをダウンロードし、車両ECMに上書きするデバイスです。(Vance&Hines社のHPより抜粋)
上記の写真左を見てもらうと、空気と燃料をコントロールする様々な項目があります。アクセルの開け具合、空燃比、アイドリングの回転数など自分で調整することができます。また中央と右の写真は、FP3を作動させながら実際にバイクで走らせることによってオートチューンをしてMAPを書き換えてくれます。様々な機能がありすぎて素人の私では説明できないので、詳しくはVance&Hines社のFP3ページをご確認下さい。
またドゥカティの車両では、マフラーをフルエキに変えた場合、純正用のECUからフルエキ用のECUに変更します。フルエキ用のECUには、フルエキマフラーの制御マップがプログラミングされている為、最適な状態になります。この方法は、フルコンやロムチューンと言われています。
そして一番お金はかかりますが、確実なインジェクション調整ができるのがプロショップです。管理人はやってもらったことはないのですが、コンピューターをバイクに繋ぎ、シャシーダイナモ(*)にバイクを乗せてデータを取りながら最適なチューニングをすることができます。
*シャシーダイナモ:通称シャシダイ。車やバイクの動力(馬力・トルク)を測定するための装置です。ローラーの上に駆動輪を乗せてローラーを回し、回転の速さをセンサーが感知して測定します。
2年前の話ですが、ハーレーのプロショップによるインジェクションチューニングは、相場が10〜15万円だったと記憶しています。前述で紹介したFP3は当時約5万円だったことから、FP3を選択して自分で試行錯誤しながら、チューニングを行いましたね。現在はFP4↓もリリースされているようなので、ハーレー乗りさんは要チェックです。
まとめ
今回は「キャブレターとインジェクション」の違いについて、色々レポートさせて頂きました。日々バイクに乗っていながら、燃料吸気のことをあまり理解していなかったので、非常に学びの多い回になりました。そして車でキャブ車に乗っている人はマイノリティーですが、バイクは今でもキャブ車に乗っている人が多い理由がよくわかりました。それが ”バイクは趣味性が高い乗り物” と言われる所以ですね。そしてキャブでもインジェクションでもベストチューニングができたなら、バイクの特性を最大限に発揮できると思います。奥深いバイクの世界、これからもバイクのことをもっと知り、楽しんで乗りたいと考えています。
PS. 昨年ドゥカティ900SSを手放したので、現在所有するキャブ車はLMLスターデラックスのみです。もう一度キャブレター搭載の大型or 中型バイクに乗りたいなぁと・・・妄想中です。
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