ライダーの皆様、アドベンチャーバイクには乗ったことがあるでしょうか?私はまだアドベンチャーのバイクを所有したことがないのですが、非常に興味があります。そしてヨーロッパで最も売れている大型バイクと言えば、SSでもカフェレーサーでもなく、実はアドベンチャーバイクです。ヨーロッパのEU圏内では、国を跨いで長距離移動したり、未舗装路や林道を走るライダーが多いことが、アドベンチャー人気を後押ししているようですね。日本では国を跨いでバイクで走ることはできないので、憧れだったりします。それではヨーロッパではなく、アメリカが誇るバイクメーカー、ハーレーダビットソンが数年前にアドベンチャーバイクをリリースしたのをご存知でしょうか。2019年にハーレーは、パンアメリカという排気量1250ccのビッグ・アドベンチャーを本国で販売開始しました。当初はあのハーレーがアドベンチャー?と話題に上がったのですが、その後あまり取り上げられなくなりました。昨今、日本市場での大型アドベンチャーの販売台数は伸びているのですが、ディーラーやバイクショップによると「パンアメリカがあまり売れない」と嘆いているようです。今回は、アドベンチャーバイクってどんなバイク?というところから、「ハーレーのアドベンチャー・パンアメリカの闇」についてお話ししていきたいと思います。
1. アドベンチャーバイクとは?
近年、日本だけでなく世界で大人気の「アドベンチャーバイク」。オンロードだけでなくオフロードでも高い走破性を誇り、より快適に長距離ツーリングできる装備が充実したモデルです。車格も250ccから1000ccを超える本格派まで充実しており、日本メーカー・海外メーカーから沢山のアドベンチャーバイクがリリースされています。
日本メーカーでは、HONDAのアフリカツイン、YAMAHAのトレーサーやテレネ、SUZUKIのVストロームなどがアドベンチャーバイクの有名どころです。
2. 海外メーカーのアドベンチャーバイク
それでは海外主要メーカー3社の、アドベンチャーバイクを見ていきましょう。
<BMW・GSシリーズ>
アドベンチャーバイクの世界で最も長い歴史があり、シェアを持つのがドイツのBMW。1980年代からアドベンチャーモデルを作り続けているBMWは、間違いなくアドベンチャー界最強の技術を持っていると思います。そのGSシリーズ現行モデルは全部で6車種あります。
・GS310GS:313cc単気筒で、普通二輪免許でも乗れるGSのエントリーモデル。値段も70万円以下の設定で、まずBMWアドベンチャーを体験するには持ってこいのバイクです。
・F750GS、F850GS、F850GSアドベンチャー:853cc並列2気筒エンジンを搭載した、ミドルクラスのアドベンチャーバイク。1000cc超クラスより軽量で、足つきもよく乗りやすいモデルです。パッケージオプションを組み合わせると最新の電子制御をフル装備で組み合わせることができます。オフロードからロンツーまで、最適なバイクです。
・R1250GS、R1250GSアドベンチャー:1254cc水平対向2気筒エンジンを搭載する、BMWアドベンチャーのフラグシップモデル。圧倒的な存在感を誇り、最新の電子制御と充実の足回りを体感することができます。オフロードや未舗装路も難なくこなし、1日1000キロ以上走っても疲れない快適性も兼ね備えた、ある意味究極のアドベンチャー・バイクです。販売価格はGS219万円〜、GSアドベンチャー278万円〜となっています。
<トライアンフ・タイガーシリーズ>
私は元トライアンフオーナーでしたが、トライアンフが1990年代くらいからアドベンチャーを作っていたのを知りませんでした。(レース車両では1970年代にタイガートレイルというモデルがあったそうです)そしてトライアンフのアドベンチャーモデルは、排気量660から1200まで大きく分けて3タイプを展開しています。
・タイガースポーツ660:トライアンフのアドベンチャーモデルの入門モデルで、価格も114万円〜とリーズナブル。水冷並列3気筒エンジンは最高出力81馬力を誇り、街乗りからロンツーまで使い勝手の良い車両です。
・タイガー900:ミドルクラスの900シリーズはGT、GT Pro、Rally、Rally Proの4種類がラインナップ。水冷並列3気筒エンジンは最高出力95馬力を発生し、とにかくオンにオフに扱いやすい仕様になっています。特にRally Proは4車種の中で一番高い193.5万円〜ですが、オフロードアドベンチャーバイクとしては秀一なモデルです。
・タイガー1200:トライアンフ・アドベンチャーシーリーズのフラグシップとなる1200シリーズは、GT Pro、GT Explorer、Rally Pro、Rally Explorerの4種類をラインナップ。ProとExplorerの違いはガソンリンタンクが、前者が20L、後者が30Lです。660、900と同様の水冷3気筒エンジンで、排気量は1160cc、最高出力は150馬力を誇ります。最上位モデルRally Explorerは275.5万円〜と高額ですが、走破する道を選ばずどこまでも走ってくれそうな装備と足回りだと思います。
<ドゥカティ・ムルティストラーダ>
スポーツモデルの印象が強いイタリアンバイクの雄「ドゥカティ」ですが、2003年よりムルティストラーダというアドベンチャーバイクをリリースしました。ムルティストラーダはBMW・GSやトライアンフ・タイガーとは毛色の違う、クロスオーバーモデルです。ドゥカティらしくスポーツ走行が得意なアドベンチャーモデルとして君臨してきたように思います。LツインエンジンからV4エンジンにステップアップしたドゥカティは、現在ムルティストラーダV4を2023年から販売しています。
・ムルティストラーダーV2:排気量937cc、テスタストレッタ11°エンジンを搭載したV2エンジンは、最高出力113馬力を誇る力強い走りが特徴です。ドゥカティのアドベンチャーの入門モデルではありますが、ガチガチのオフロードより、林道やフラットダートを走りたくなる車両だと思います。上位モデルにV2Sがラインナップされています。
・ムルティストラーダV4:アドベンチャーの4気筒モデルとして、V4、V4S、V4Sスポーツ、V4パイクスピークがリリースされています。排気量1158cc、水冷4気筒エンジンは、最高出力170馬力を誇る、スポーツバイク顔負けのスペックです。特にフラグシップのパイクスピークの装備は充実しており、スポーツツアラーとして乗りたい一台です。
*ドイツ・BMW、イギリス・トライアンフ、イタリア・ドゥカティのアドベンチャーモデルを紹介しましたが、三社三様の特徴やスタイルがあって非常に興味深いですね。それではアメリカ・ハーレーダビットソンのアドベンチャーモデルを、次章で見ていきたいと思います。
3. パンアメリカってどんなバイク?
ハーレーのアドベンチャーを紹介する前に、ハーレーとしての転機が2019年にやってきたというお話をしたいと思います。これまでハーレーといえば空冷V型2気筒エンジンと言われるほど、空冷にこだわってバイクを製作してきたメーカーです。(Vロッド&ナイトロッドのみ水冷)それが時代の流れなのか、排ガス規制が厳しくなり、ハーレーとしても空冷エンジンを出し続けられない状況になってきました。そして2019年ハーレーがついに水冷エンジンにシフトチェンジすることになります。空冷ビッグツインのファットボーイ(2017年式)に乗っていた私には、今だにハーレーの水冷エンジン化が信じられません。
そんなハーレーダビットソンが、水冷エンジンのアドベンチャーバイク「パンアメリカ」を発表したのは、大変驚きでした。そして今世界で盛り上がっているアドベンチャー市場に、ついにハーレーが参戦してきたのです。しかしながら、前章でも述べたアドベンチャーの王者BMW・GSをはじめ、各メーカーは長い年月をかけてアドベンチャーモデルを熟成してきている市場に、ハーレーが勝負して勝ち目があるの?と考えてしまいました。
前置きが長くなりましたが、ハーレー・パンアメリカがどんなバイクか見ていこうと思います。パンアメリカのモデルはSTDとスペシャルの2種類ですが、身長175cm以下の人は迷いなくスペシャルを選びましょう。スペシャルの特筆すべきポイントはアダプティブライドハイトが付いてることです。本来のシート高は890mmですが、エンジン始動時や信号待ちの時には、830mmまで自動でシート高が下がります。アドベンチャーは足つきが悪いので敬遠しているライダーには、嬉しい機能だと思います。(価格はSTD231万円〜、スペシャル273万円〜)
排気量1251cc、DOHC4バルブの60度水冷VツインのRevolution Max1250エンジンを搭載し、最高出力は150馬力を誇ります。車体重量は240kgを超えますが、街乗り・高速道路だけでなく林道や未舗装路などを快適に走破できるアドベンチャーバイクに仕上がっています。そしてパンアメリカのオーナーさんは口を揃えて、乗りやすいバイクだと言います。ライバルのBMW・GSやトライアンフ・タイガーなどとも十分に渡り合える仕様となっています。
4. パンアメリカは何故売れない?
そんな魅力的なパンアメリカなのですが、販売から2年経過して、ディーラーやバイク屋さんによると売れ行きはイマイチなようです。確かに九州各所を走っていても、ほとんどパンアメリカを見かけません。アドベンチャーが売れている昨今、なぜパンアメリカは売れないのか、私なりの持論を交えながら考えていきたいと思います。
A. ハーレーが水冷エンジン?
前章でも述べましたが、ハーレーと言えば空冷エンジンです。1936年のナックルヘッドから始まり、パンヘッド、ショベルヘッド、そしてエボリューション、ツインカム、ミルウォーキーエイトへと系譜していった伝統のOHVエンジン。この90年近い歴史を持つ空冷OHVが、ハーレーを構築してきたと言っても過言ではありません。そしてハーレーを長らく愛するオーナーさん達は、この空冷45°Vツインのエンジン音が大好きです。
その長い空冷時代を経て、新たな水冷エンジン「レボリューションマックス」が初めて搭載された車種の1つがパンアメリカになります。元来空冷だったスポーツスターやファットボーイのエンジンが、水冷にとって変わるのとは訳が違います。元々のハーレーユーザーが、ハーレー水冷のアドベンチャーにいきなり乗ろうとはならないのです。
B. ハーレーのアドベンチャーに乗らなくても・・・
元々のハーレーユーザーには刺さらなくとも、アドベンチャーライダー達の新しい受け皿になるのでは?と思うかもしれません。しかしながら、2章でも述べたように他のライバルメーカーは、数十年もトライ&エラーを繰り返しながら、アドベンチャーモデルを製作し、それを進化させてきました。従来からのアドベンチャーユーザーも、そう簡単にはBMW・GSからハーレーに乗り換えようとは思わないでしょう。
C. ハーレーにもアドベンチャーにも乗っていない層には?
それならハーレーにもアドベンチャーにもゆかりのないライダーに、パンアメリカは刺さるかです。ドンピシャにスタイルが気に入ったということが無い限り、答えはノーでしょう。乗り出し価格も250万円以上、シート高890mmで車重250kg、ライト層が気軽に乗れる価格やスペックではありません。排気量や車格が小さいモデルがあれば、検討の余地はありますが・・・。
A〜Cの事項を考察すると、パンアメリカが日本市場で売れない理由もよくわかります。とにかくハーレーのアドベンチャーが成熟し、市場に受け入れられるまで結構な時間がかかるでしょう。1970年代のカフェレーサーブームを機に、ハーレーがXLCRというカフェレーサーをリリースしたのをふと思い出しました。そのXLCRは全世界でセールスが振るわず、1977〜1979年のわずか3年で販売終了しました。さてパンアメリカが今後も継続して生産されるか、XLCRのように販売終了してしまうのか、神のみぞ知るですね。
5. パンアメリカは今がお買い得
セールスがあまり芳しくないパンアメリカですので、中古市場での値段は下がっています。パンアメリカスペシャルにオプションをつけて新車で購入すると、300万円は超えてきます。しかしながら販売から2、3年経った低走行距離の中古車両が、なんと150〜200万円で結構出ています。新しい車両にも関わらず、新車の半額で購入できるので、これは寧ろお買い得車両と言えます。150万円で最新技術のビッグアドベンチャーが乗れるのなら、パンアメリカを選ぶのはアリでしょう。そして長く寝かせておけば、XLCRのようにプレミア車両になるかもしれません。
Gooバイクのハーレー・パンアメリカ1250スペシャルの中古情報はこちら
6. 最後に
今回は、「アドベンチャーバイクとは?」から「ハーレー・パンアメリカの闇」についてお話しました。パンアメリカのインプレッションを多数見ましたが、こういった切り口で書いているものはありませんでした。しかしこうやって調べてみると、メーカーやブランドのイメージって本当に大事ですね。イメージを覆すモデルをリリースすることは、”諸刃の剣” だと言えます。上手くいけばエンジン名にもあるように革命(レボリューション)ですし、上手くいかなければご乱心や失敗になる訳です。そんな話をしていたら、ますますアドベンチャーかオフロードバイクに乗りたくなってきました。ハーレーのパンアメリカは今後どうなっていくのか、引き続き見守っていきたいと思います。
Rurikoさんのパンアメリカ・インプレッションはこちら↓